melodious


あの日のことを話すと、ボリスはいつも苦笑いする。 


ボクにとっては、とても大切な思い出なのに。 




 大晦日の夜、ボクとボリスは蝶の木の丘で、のんびり星空を眺めていた。 
 ここから見る星空はとっても綺麗なんだ。薄明るい光を受けて、キラキラしてる蝶の木も凄く
綺麗。幻想的っていうのかな?
 今ボクたちの周りで起こっていることや、周りにいる人たちのことなんかすっかり忘れて、ボク
とボリス二人だけの世界を造ってくれる、不思議空間。 

だけどボリスは少し不機嫌で、さっきからずっと無口なままだ。 

「そんな顔してると、新しい年が逃げてっちゃうよ?」 

「時間が経てば向こうからやってくる。季節なんてそんなもんさ。」 

「またそんなこと言って。」 

表情を変えないまま話すボリスは、正直言ってちょっと怖い。 
何を考えてるか分からなくて、怖くなるんだ。 

だからボクは、ポケットからオカリナを取り出し、それをそっと口に当てた。 


(ボリスが元気になりますように。笑顔になりますように。) 


 心の中でお願いして、メロディーを奏でる。 
 本当は下手クソなの知ってるけど、上手に吹いてるんだって思えば綺麗なメロディーに聞こえ
るよね? 


だってこれは、ボクの心のメロディーなんだから。 



「なんでオレの事が好きなのか、聞かせてくれないか?」 

ふいにボリスが、呟くように言った。 

「何でって・・・。」 

オカリナを離し、手の中で転がしながらその理由を見つける。 

言葉にするのは難しかった。考えても考えても、いい言葉が見つからなくて。 

だからボクは、膝を抱えて座り込んでいるボリスに近寄り、体ごとギュッと抱きしめた。 

「こうしたら、すごくホッとするんだ。どうしてか分からないけど、ボリスがいなくなっちゃう事を考
えると、胸が苦しくて涙が出てくる。だからずっと、こうして捕まえておきたい。これって好きって
ことだよね?」 

「・・・・・・そう、だな。」 

腕の中にいるボリスが、クスッと笑った。 

「ボリスは、ボクのこと好き?」 

「好きだよ。」 

 顔を上げて微笑むボリスの目に、少しだけ涙が浮かんでたから、ボクはもう一度力いっぱい
抱きしめてこう言ったんだ。 




「ボクはここにいるよ?ずっとボリスの傍にいるから、大丈夫だよ。」 




ボリスは両手で顔を押さえながら、泣いていた。 
どうして泣いてるのか分からなかったけど、でもきっと答えは見つかったんだよね? 
だって、泣いてるのに笑いながら、ボクを抱きしめてくれたんだから。 



「来年も再来年も、おじいちゃんになるまで一緒なんだからね!」 

ボリスがコクンと頷いた。 

「ずっとずっと、一緒にいてくれるよね?」 

「もちろんだ。」 

「えへっ!」 




きっと今頃、新しい年を告げる鐘が鳴ってる。 
ボク達は抱き合いながら夜空を見上げて、今年初めての流れ星に願い事をした。 



いつもボリスが笑顔でいられますように。 

いつまでも、ボクの傍にいてくれますように。 

----------------------------------------------------------------------------
「Escape」の年賀企画の小説です。
ボリスとルシアンの大晦日の話です。


トップへ
トップへ
戻る
戻る